前回のあらすじ。
旅先と地元の両立を図った今年の大型連休。
GW前半は鹿児島県薩摩半島の西に浮かぶ甑島での観察を計画しました。
初めて足を運ぶ離島とあって些か不安もありましたが、その不安を払拭してくれたのはシマアオジ。
主要となる探鳥地へ赴いて僅か数分の出来事だっただけに、自分の目を疑いたくなるような出会いでした。
その後も次々と良い出会いに恵まれ約半日のうちに観察できた鳥は数えきれないほど。
特にキマユホオジロについては島中にいるといった様子で大変驚かされました。
2024年4月27日
強い雨音で目覚めた二日目。
宿泊先から外を眺めると島全体が低い雨雲に覆われ辺りは真っ暗。
眼下に見えるのは上甑島の里港。
本来であれば主要探鳥地のある下甑島へ宿を取りたかったのですが、計画が遅かったためか何処の宿も予約でいっぱい。
上甑島の里港から下甑島の長浜港まで車で移動した場合、約1時間を要するため時間を無駄にしてしまいます。
しかし初日の観察が想像以上の成果であったことから気持ちにも余裕ができ、二日目は上甑島の散策から始めることに決めました。
宿泊先の周辺には広いグラウンドや田畑が点在し、田畑の面積としては下甑島以上。
しかしその大半は手付かずで荒れた状態。
おそらく農業の担い手が居なくなっているのでしょう。
何処の地域も高齢化に伴う過疎化が進み同じ問題を抱えていることが伺えます。
しかし地理的な特権から渡り鳥は沢山。
上甑島もキマユホオジロだらけでした。
観察が容易であることは言うまでもありませんが、これほどの数が何処へどう移動するのか気になります。
こちらのコホオアカも同様に数が多く、個体数としてはスズメ以上。
またムネアカタヒバリも多く見られ、タヒバリの方が少なかったように思います。
田植え直後の水田にはセイタカシギとタカブシギが1羽ずつ。
シギチが少なかったのは意外にも思えましたが時期的な問題なのかもしれません。
上甑島の散策を終えて下甑島へ移動する際、中甑島ではホオジロを発見。
後にも先にもホオジロを確認できたのはこの1羽のみでした。
地元とは逆転現象が起きていただけにホオジロが珍しく思えたのは甑島ならではといったところでしょうか。
下甑島の主要探鳥地へ着くと前日に顔を合わせていた鳥屋さんが熱心に鳥を探していらっしゃいました。
聞くとこによるとシマアオジは早朝の時間帯に同じ場所で囀っていたのだとか。
オウチュウは警戒心が強く観察をするには程遠い状況にあるとのこと。
前日と鳥相は変わっていないとのことでしたが全体的に数が減ったとのことで、周囲を見渡してみたところ確かにホオジロ類が数を減らしていました。
もしかすると上甑島の方へ少しずつ移動していたのかもしれません。
牧場を覗いてみるとセキレイ類は変わらず見られ、こちらは夏羽が美しい亜種ツメナガセキレイ。
亜種タイワンハクセキレイも健在でした。
他の鳥屋さんが見向きもしいないセッカは個人的に珍鳥扱い。
秋田では見ることができません。
旅先でよく目にするセッカですが、飛んでいる若しくは遠いという場面がほとんど。
カメラを向けるとそそくさと潜ってしまうため、こうして撮影を許してもらえることは有り難く思います。
何か目新しい鳥は見られないかとあちこち動き回っていると路地裏でヨーロッパビンズイを発見。
渡りの時期は何処に出会いが待っているのか分かりません。
勿論土地柄ということもあるかと思いますが、離島では住宅地でも気を抜くことができないと思わされる観察例となりました。
こちらは困った時のアカガシラサギ。
探鳥が芳しくない時はアカガシラサギを撮影している鳥屋さんが多く、良いモデルになっていたように思います。
アカガシラサギの撮影に没頭しているとギンムクドリを見かけたという情報を頂きました。
これまでに地元を含め旅先でも多く観察していましたが、甑島での記録として観察しておくことに。
情報のあった場所へ足を運ぶと水浴び直後のノジコを発見。
肝心のギンムクドリが視界に入らず双眼鏡であちこち覗いていると200mほど先にそれらしき鳥を発見しました。
同時にカラムクドリらしき鳥も確認できたため場所を移動してみると...
棚から牡丹餅。
カラムクドリらしき鳥の正体はシベリアムクドリ。
カラムクドリとコムクドリ、両種の特徴に似た部分があることから現地では曰く付きの鳥になっていました。
こちらは情報にあったギンムクドリ。
暫し観察を楽しんだ後に探鳥を再開しましたが、目新しい鳥を見つけられず悶々としていると40m先の距離にオウチュウを発見。
他の鳥屋さんが遠距離から観察するなか千載一遇のチャンスが到来したとすかさず車を止めるとあっという間に飛去。
やはり警戒心が強く観察させてもらうことができません。
遠くまで飛んでしまったのか幾ら探しても見つけることができず、気分転換にと観光名所を訪ねてみることに。
車を走らせ5分ほど移動すると電柱の支線に止まるオウチュウを発見。
逸る気持ちを抑えそっと車を後退...
オウチュウは草の間隙から僅かに見える程度です。
これが功を奏し草がブラインド代わりとなたお陰でオウチュウは飛び立つことがありませんでした。
草の間隙を縫いMFでの撮影。
我ながらよく見つけたもんだと自画自賛。
これといって動きはなく止まっている姿を眺めているだけでしたが、距離が近かっただけに特徴をしっかりと観察することができました。
オウチュウの観察を終えた後はナポレオン岩を望む展望台へ。
瀬々野浦の沖合海上に突き出たこちらの岩、高さが122mあり横から見るとフランスの偉人ナポレオンに似ているということからナポレオン岩と呼ばれているそうです。
感受性豊かな方であればナポレオンに見えるかもしれません。
しかし物事を斜に考える私には熱帯魚にしか見えませんでした。
それよりも展望台までの道のりが険しく、そちらの方が印象に残るほど。
下甑島の主要探鳥地から往復1時間半、時間を無駄にしてしまったようにも思いましたが初めて訪れた離島とあって鳥だけ見て帰るのも勿体無いものです。
主要探鳥地へ戻ると居合わせた鳥屋さんより近況報告を頂き、私が離れている間にシマアオジが囀っていたとか...
「ぐぬぬ...ナポレオンの野郎」
羨ましく思える報告を聞かされ私にも何か良い場面が訪れたらと探鳥を再開したところオウチュウを発見。
やや距離は離れていたものの双眼鏡で観察するには十分な距離です。
不思議にもこの時は警戒する様子が見られず時間の許す限り観察を継続しました。
飛んでいる時には長い尾羽をなびかせサンコウチョウを彷彿とさせますが、それほどの俊敏性は無く採餌の動き方はヒタキを思わせます。
初日の印象からは証拠写真を撮ることが精一杯と思っていただけに、この様に観察できたことは大きな収穫と言えるでしょう。
二日目はやや間延びした時間があったものの終わり良ければ全て良し。
この日も気分を良く宿泊先へ戻りました。
2024年4月28日
甑島での探鳥はこの日が最終日。
短い日程なだけに本当にあっという間でしたが、その間に観察できた鳥は数えきれません。
それでも欲が出るのは強欲と言われるでしょうか。
残された時間のなか目新しい出会いがあればと、この日は朝食を摂らず下甑島へ移動しました。
朝から快晴のお天気に恵まれ観光日和ですがバードウォッチャーにとっては痛手です。
前日の様子から更に渡り鳥が抜けてしまうのではと危惧していましたが...
案の定、主要探鳥地は閑散とした様子でした。
手持ち無沙汰にアカガシラサギを撮影している鳥屋さんが数人見られ、右に倣って私もアカガシラサギを撮影。
初日は数えきれないほど見られたキマユホオジロも、たいぶ数を減らしていました。
可能な限り探鳥を重ねましたが新たな発見がないまま時間は過ぎていくばかり...
高速船の出航は10時30分。
そのため遅くとも10時にはレンタカーを返却しなくてはいけません。
時刻を確認すると9時45分。
もはやこれまでと思った矢先の出来事。
草地のなかからシマアオジが姿を現しました。
最後の最後によく出てくれました...
こうして終わった甑島での探鳥。
振り返ってみるとシマアオジに始まりシマアオジに終わるという贅沢な旅になりました。
これといったトラブルも無く、無事に甑島を離れると帰りの高速船では海鳥を観察。
行きは悪天候のためデッキが封鎖されており船内からの観察でしたが、帰りは好天のもと海鳥を観察することができました。
あっという間の航路であるだけに数はそれほど多くなく、確認できた海鳥はカツオドリとオオミズナギドリの2種。
本土へ戻った後は鹿児島市へ寄り道。
フェリーターミナルから桜島を眺め鹿児島県の旅を終えました。
今回の旅を振り返ると鳥果は勿論のこと、島民の方に対して好印象の残る旅となりました。
旅行者にも挨拶をしてくださる方が多く、車を運転していても会釈をされる場面がありました。
島の全体の雰囲気が良く優しさに溢れた印象を受け、こうした気持ちになれた記憶は久しくありません。
旅を終えたばかりですが良い思い出が多かっただけに早くも来年の旅を計画中。
来年の甑島ではどんな出会いがあるのか今から楽しみです。
2024年 野鳥観察の旅 in 甑島 (4月) はここまで。