2021年12月12日
今回の日記は探鳥ガイド記。
コロナの感染者数も少ない数字で経過することにより少しずつ曾ての日常が戻りつつあるようです。
先月下旬の連休は全国各地で観光客が増え賑わいを取り戻していたようですが、この連休を利用して秋田へお越しになったのは関東在住のお客様。
北国での冬鳥観察は初めてということもあり、入念な打ち合わせを経て秋田入りという運びとなりました。
3泊4日の日程で初日は正午到着の便で秋田空港へ。
今回の旅行でメインの観察地となる大潟村まで空港からの所要時間はおよそ1時間20分。
この時期の秋田は15時ともなると空は赤く染まり16時には暗くなり始めます。
そのため1秒でも早く観察を始めたかったことからご主人に「高速道路を利用した場合20分ほど時間を短縮できます」と伝えてみたところ『高速で行きましょう!』という気持ちの良い二つ返事を頂戴しました。
道中は天気予報を鑑みてガイド期間中のプランをご案内。
あっという間に大潟村の入り口まで到着したところで先ずはホオジロガモの群れを見て頂きました。
いかんせん距離が遠いことから足早に場所を移動して大潟村へ入ると田んぼにはハクチョウたちの姿が。
素通りする私に対して奥様からは『あのハクチョウを素通りして大丈夫ですか?』とのお言葉。
田んぼに群れるハクチョウを目するのは初めてのご夫婦にとって私の行動は理解し難いものだったのではないでしょうか。
「大丈夫です、この先ではもっと沢山の群れを見られますから」と伝え、村に入って最初に観察したのはヒシクイの群れ。
ヒシクイとオオヒシクイの違いを解説を交えながら観察して頂いていると、遠巻きにハクガンの群れが舞っている姿を目にしました。
そちらは風景の一部として撮影して頂きヒシクイの観察を終えたところで早速ハクガンの観察です。
ハクガンが群れているであろう場所へ到着すると大きな群れが周囲を旋回する様子が見られました。
着陸する場所を見定めている様子が伺え、群れは徐々に着陸態勢へ。
初めて見るハクガンの群れを目の前に『凄い!』『綺麗!』という声の連続でした。
地上へ降りた群れを観察しながら日本への渡来が途絶えたハクガンがどの様に復活し数を増やしたかについて歴史を紐解く形で解説。
ご夫婦は興奮冷めやらぬ状態でしたが、群れ全体を観察したところで話題のアオハクガンを探します。
地元の者ですら難儀させられることも多いアオハクガンの観察ですが、やっとの思いで見つけることができたものの居場所を一体どの様に説明したらよいものか。
こちらはアオハクガンを写した原画。
拡大してみてもこの様な状態です。
特徴を説明したうえで背景にある人工物を頼りに居場所を伝えてみますが、アオハクガンは採餌をしながら移動を繰り返すため一筋縄ではいきません。
何とかお客様に伝えることができた頃には日没時刻が迫っていました。
暗くなり始めるとあっという間に夜の雰囲気。
帰りがけにガン・カモ類の塒が賑わっている様子も見て頂きたいと思いそちらへご案内。
塒に到着してからは動画で様子を記録してみました。
映像は明るめに補正しています。
暗がりのなか目を凝らしてみるとうっすらと白い物体が見え次々と塒へ飛来。
白い物体の正体はハクガンでしたがハクガンの塒入りは他のガン・カモ類に比べるとかなり遅く通常は暗闇を飛んできます。
ご夫婦の運の良さに驚かされつつもカメラの感度を最大まで上げ塒入りの様子を撮影。
群れの塒入りが終わる頃には月が登り始め、赤銅色に輝く月は水面を赤く照らして幻想的な雰囲気が漂っていました。
日程2日目も前日に引き続き大潟村周辺での観察です。
朝一番で見て頂いたのはハクチョウの塒立ち。
ハクチョウは他のガン・カモ類に比べると水辺を離れるタイミングが遅く、村に入って間もなく塒立ちを見ることができました。
こちらではハクチョウの飛翔シーンを堪能。
水辺から少し離れた田んぼでは30羽ほどのハクチョウたちが採餌をしており、前日はあれこれ見ているうちに観察のタイミングを逃していたことからじっくりと観察して頂くことに。
群れの中ではアメリカコハクチョウも見ることができ併せて観察。
ハクチョウの観察を終えて車を走らせるとミヤマガラスが渦を巻くように飛んでおり、ざっと見たところ1000羽超の群れだったでしょうか。
田んぼで採餌をしているミヤマガラスを観察して頂き特徴や習性を解説。
群れの中からコクマルガラスの成鳥を探してみると好条件で観察することができました。
とは言っても警戒心が強いことからなかなか近くで見ることはできませんでしたが、これも習性を知る意味では良かったのかもしれません。
個人的に首を長くして待っているオオワシが気になり、止まり木を確認してみましたが残念ながら空振り。
気を取り直して他の鳥を探してみると水辺ではホオジロガモを見ることができ、前日よりも近い距離で見て頂くことができました。
また水辺にはチュウヒの姿もあり、お客様が観察をしてる間に周辺を見渡しているとカラスの動きに異変を察知。
遠巻きではあったものの「おかしな動きをしているな」と双眼鏡で覗いてみたところ視界に飛び込んできたのはカラスにモビングを受けているオオワシの姿でした。
ご夫婦へ遠くの木にオオワシが止まっていることを伝え、証拠写真の撮影をして頂いたところで距離を縮めてみることに。
しかし距離を縮めた頃には姿が見えなくなっており、念の為にと止まり木を再度確認してみましたが見当たりません。
「単なる通過個体だったのだろうか・・・」
チュウヒには弄ばれることが多く、何とか好条件で見て頂こうと水辺を移動していると鳥友さんより『主が来てます』との連絡を頂きました。
慌てて戻り止まり木を確認してみたところ当たり前のように止まっているオオワシの姿が。
「やはりさっき見た個体はいつもの彼だったのか」と思ったのと同時に、今季も無事を確認することができ感無量。
枝被りではありましたが季節の進みが遅いことで空抜けにならなかった点は良かったと思います。
一頻りオオワシを観察したところで奥様のリクエストにお応えする形でホシムクドリを探してみることに。
事前に行った下見では2箇所でホシムクドリを確認していたことから最初のポイントへ行ってみると付近をハクガンの群れが飛んでいました。
群れは周囲を旋回すると次々に着陸。
こちらではオオハクチョウとコハクチョウの混群が見られ識別点を解説しながら観察していたところ標識個体を発見。
赤のバンドにC27と表記されていました。
更にこちらでもアメリカコハクチョウを確認。
肝心要のホシムクドリがなかなか見当たらず場所を移動しようか思案していた矢先、遠くを飛翔する小鳥の群れを目にしました。
咄嗟に撮影した画像を拡大して確認してみたところ、画像に写る26羽全ての個体がホシムクドリであることが判明。
群れの動きが早く見失ってしまい辺りを見渡していると背後から突然ホシムクドリの群れが頭上を通過すると前方の草むらへ。
慌てるご主人を諭して慎重に車を前進させましたが草むらの中を移動しながら採餌を続けるホシムクドリに手も足も出ません。
証拠写真を量産するだけの時間が続き何をすることが最善策であるのか過去の経験を基に頭をフル回転。
姿が見えにくいとは云え直ぐそばにホシムクドリが群れているのは事実。
どのような形で見て頂くとご夫婦に喜んでもらえるのか悩んでいたところ群れが何かに反応するように僅かながら飛び上がりました。
そのうちの1羽が目立った場所に止まってくれ願ってもないチャンスが到来。
だるまさんが転んだ方式で距離を縮めることにし、その都度ご夫婦に確認を取り徐々に距離が縮まっていきます。
何故かこの1羽だけ人(鳥)が変わったようで、かなり近いと思える距離まで車を進めても尚モデルを続けてくれました。
最終的に距離・光の加減・撮影位置に関して好条件で撮影することができ、ご夫婦にとってこの時のインパクトはかなり強かったのではないでしょうか。
不意に群れは一斉に飛び立ち、そちらのシーンについてはピント合わせが追い付かず・・・
ホシムクドリの撮影を終えてご主人と奥様が互いに撮影した画像を見せ合い、満面の笑みを浮かべている姿は本当に微笑ましいものでした。
会心の場面だっただけに脱力感に包まれていると、このタイミングでハイイロチュウヒ雌が登場。
トリッキーな動きを見せるハイイロチュウヒにご主人は撮影に手こずっていた様子。
もう少し距離が近ければ良かったのですが「もうちょっと」と思える位置を飛ぶことが多かったように思います。
そしてガイド期間中に幾度となく言われてしまった『ノスリを無視された』問題。
閑静な住宅街にお住まいのご夫婦は普段ノスリを目にする機会がないそうです。
このコロナ禍において地域柄まともに出歩くことすらできず2年間も棒に振ってしまったとのことで今回の観察旅行は大変楽しみにしていたと仰っていました。
その様な意味でもキッチリと対応しなければならなかったのですがこの件については私の反省点。
暫くハイイロチュウヒの出待ちを続けましたがカラスに追われてからは姿を現さずこの日の観察はここまで。
2日目の観察を終えた段階で想定していた種をほとんど見ることができご夫婦共に大変満足されているご様子でした。
この日の夜はご夫婦よりディナーの招待を戴きイタリアンのお店へ。
シャンパンで乾杯をしてから一皿ごとにワインが次々と・・・
鳥談議は尽きることがなく、おもてなしをする立場の私が美味しいお料理を沢山ご馳走になってしまいました。
参考までに自宅で食べたこの日の朝食がこちら。
朝と夜のギャップが激し過ぎて私の胃袋もさぞかしビックリしていたことでしょう。
日程3日目は観察の舞台を変えて男鹿半島へ。
しかしこの日は生憎の空模様。
天気予報通りの天候で覚悟はしていたものの鳥を見るには薄暗いと感じるお天気でした。
この日はカモ類やカモメ類、その他海鳥が見れたらと各漁港を転々としてみたものの何処を回ってみても閑散とした雰囲気。
これといった出会いに恵まれないまま車を走らせていると奥様が岩場に止まるイソヒヨドリを発見。
ペリットを吐き出そうとしていたようで頻りに嘴をモゴモゴと動かしていました。
途中ウミアイサを見て頂きましたが確実に出会えると思っていたヒメウすら見ることができず・・・
間延びした時間が続きましたがシノリガモを見ることができたのは幸いでした。
想定していた鳥が全くと言っていいほど見当たらずお客様をガイドをする身としては胃に穴が空く思い。
結果的に良いところがないまま時間は正午を迎えてしまいました。
半日を潰してまでも結果を出すことができず、午後からは気持ちを切り替え大潟村へ。
大潟村での観察を振り返ってみるとマガンを近くで見ることが出来ていなかったことを思い出し午後からはマガンを観察。
併せてシジュウカラガンを探してみましたが私の力及ばず見つけ出すことは出来ませんでした。
しかしご夫婦は北帰行のタイミングで再び秋田へお越しになられるとのことでしたのでシジュウカラガンは次回のお楽しみに。
時間を追う毎に雨足が強まり「今日はここまでか・・・」と思わされる天候でしたが消化不良のまま終わる訳にはいきません。
翌日は荒れ模様の天候が予想されていたこともあり、この時点で予定よりも早い便で帰路につかれることが決まっていたことから大潟村で最後の観察は確実に見ることのできるハクガンを観察して頂きました。
この時は運良くアオハクガンが群れの手前側に。
アオハクガンを中心に観察を続けていると、何処からか別の群れが飛来し目の前で着陸シーンを見ることができました。
暫く観察を続けているとアオハクガンを含めた約30羽が飛び立ち周囲を旋回。
降りる場所がなかなか定まらないようでタッチ&ゴーを繰り返していましたが、ようやく着陸したことを確認し私たちも場所を移動。
改めて観察を始めると残っていた群れが飛び立ち再び合流する様子を見ることができたのでそちらの様子はスマホで動画撮影。
最後の最後に良いシーンを見ることができ、雪が舞うような姿にご夫婦共に感激されていました。
この様にして大潟村での観察は有終の美を飾り、観察を終えた後は郷土料理のお店へ。
ご夫婦はしょっつる鍋を食べたことがないとのことで私もご相伴にあずかることに。
鍋だけではなく天ぷらも美味しいお店でお腹いっぱいご馳走になりました。
前述した通り日程4日目は荒れ模様の天候が予想されたことから、ご夫婦は予定よりも一便早い飛行機で帰路につかれることに。
観察時間が限られていたことからこの日は私の自宅周辺で観察して頂きました。
ご夫婦のお目当てはキジ。
秋田に住んでいると当たり前に見られる鳥も首都圏では見る機会が少ないとのことでいつも見かける場所に案内してみると・・・
いつも見かけるはずの鳥が探すとなると居ないというバードウォッチングではありがちなお話。
それでもあちこち探し回って雄3羽と雌4羽を見て頂くことができました。
少しでも良い形で記録に残して頂きたいと思い私は撮影しなかったことから画像はイメージ写真です。
最後には空港近くの田んぼでオオハクチョウの群れに見送ってもらい、秋田で3泊4日の観察旅行は滞りなく終了しました。
この4日間ご夫婦には風力発電がいかに野鳥にとって脅威となっているか肌で実感されたことと思います。
今回の旅行で感じたことを多くの方に伝えて頂ければと願い、最後は握手でお見送りをしました。
4日間の出来事を一つの記事に纏めたため長くなってしまいましたが、今回の探鳥ガイド記はこの辺でおしまいです。
Nご夫婦、秋田での観察お疲れ様でした。