2021年9月5日
今回の日記はチゴハヤブサの観察記。
日本に夏鳥として渡来するチゴハヤブサですが、繁殖を終え今年生まれた個体も間もなく移動を始める頃です。
今季はオオジシギの観察の合間をみて繁殖状況を確認してみましたが、嘗てないほど状況は悪化していました。
先ず始めに向かったのは数年前に観察を行っていた地域。
そちらの地域で車を走らせるとチゴハヤブサを目にする機会が多く、電柱に止まる姿もよく見かけていました。
しかし繁殖を繰り返していた営巣木が伐採されて以降、営巣場所を移して繁殖できていたものの次第に個体数を減らし今季は1羽も確認できず。
そのため繁殖が見込まれる別の地域にも生息の確認に出向いてみましたが、観察できたのは謎ミミズクのみ。
少し観察を怠っていた間に随分と個体数が減ってしまったことを実感しました。
そこで業務での移動中にとある地域でチゴハヤブサのペアを見かけていたことから、そちらの地域で繁殖状況の確認してみることに。
私が見かけたのは2羽のチゴハヤブサがトビをモビングする姿で、その付近に営巣していることは容易に想像できましたが普段観察を行うことのない地域とあって手懸りとなるものは何もありません。
先ずは成鳥の捜索からと目撃した地域へ差し掛かるとトビをモビングしているチゴハヤブサを発見。
かなり距離が離れていたので画像は拡大していますが、急上昇と急降下を繰り返しトビを攻撃している様子を写したものです。
執拗に攻撃することでトビは遥か彼方へ飛び去りましたが、縄張の外へ排除を終えたチゴハヤブサは必ず巣に戻るはず。
その様に考え成鳥を見失わないよう確認を続けましたが、想像以上に私との距離は離れていきました。
営巣場所を中心に凡そ半径500mのラインが警戒範囲と考えていましたが、明らかに縄張りを離れてしまったように思います。
結果的に姿を見失ってしまい、飛去した方角を捜索する他ありません。
周囲にはチゴハヤブサが営巣しそうな疎林が幾つもあったので、しらみ潰しに捜索してみたものの何の手懸りも得られず。
そこで原点に立ち返り業務中に目撃した場所を中心に捜索してみたところ、アンテナ塔に止まる成鳥を発見。
成鳥が止まる直ぐそばにはカラスが使っていたと思われる古巣も確認できました。
古巣を利用して繁殖していることは間違いないでしょう。
双眼鏡で確認してみたところ白いフワフワの雛が暑そうに口を開き、鉄塔のアングルにもたれ掛かる様子が見られました。
折しも晴天猛暑が続き、陽射しを遮る物が一切無いので過酷な状態であることは容易に想像できます。
もう1羽の雛も居るようでしたが、高い所に巣がある為ハッキリ確認することは出来ません。
巣の傍に止まっていた成鳥が雛に覆い被さり日傘となる様子も見られましたが縄張りにトビが侵入。
領空侵犯機と判定されたため親鳥がスクランブル発進。
巣が手空きとなっている状態が続くとハチクマが上空を悠々と通過。
トビの迎撃に気を取られていたのかハチクマは排除の対象外であるのか分かりませんが、遠くに離れたもう1羽の親鳥も戻ってくることはありませんでした。
比較的低い高度を飛んだハチクマはチゴハヤブサの巣に危害を加えることなくソアリングをしながら徐々に高度を上げていきます。
この日はスクランブル発進から戻る親鳥を見届けたところで観察は終了。
繁殖を確認することが目的であった為、これ以上巣の近くに留まる必要はありません。
繁殖を確認できてから暫く経ち、そろそろ巣立ちを迎えている頃だと考え夏季休暇の最終日は午後から様子を見に行ってみることに。
私の経験上、チゴハヤブサはお盆の頃に巣立ちを迎えることがほとんどです。
営巣場所に着いてみるとアンテナ塔には親鳥の姿が。
巣の周囲を丁寧にチェックしてみましたが巣立ち雛の姿は見当たりません。
そこで営巣場所付近の杉の木や枯れ木をチェック。
チゴハヤブサの巣立ち雛は巣を離れると付近の枯れ木に止まり親鳥からの給餌を待ちます。
参考までにこちらは以前観察できた個体を写したもの。
過去の観察経験を基に周辺の枯れ木をチェックしてみましたが、なかなか巣立ち雛が見当たりません。
巣は高いところにあるためハッキリと確認することは出来ませんが、見える範囲で確認しても雛の姿は無いように感じます。
「もしかしたら繁殖は失敗したのだろうか・・・」
悪い結末が脳裏を過りましたが不意に聞こえてきたのは巣立ち雛の鳴き声。
親鳥と鳴き交わしているようで耳を澄ませてみたところ然程離れていないように思えました。
もう一度周囲を丹念にチェックしてみたところ・・・
「ここに居たのか」
灯台もと暗し。
枯れ木ばかり見ていたので電柱とは盲点でした。
間もなく親鳥が飛び立つと給餌を待つ巣立ち雛は翼を何度も羽ばたかせて空腹をアピール。
物凄い風切り音と共に直ぐそばを通過した親鳥を撮影してみたところ、一瞬で獲物を仕留めたようで口には息絶えた小鳥の姿が。
しかし撮影できた画像はチゴハヤブサの飛行速度に追い付かずフレームアウトしたものやピンボケ写真を量産。
口に咥えていた獲物を足に持ち変えた親鳥は巣立ち雛の元へ。
親鳥が電柱のアングルに止まるや否や、奪い取るような勢いで巣立ち雛が獲物に飛び付きます。
既に獲物は息耐えているものの、羽をばたつかせて獲物に喰らい付く行動は猛禽の持つ本能なのでしょうか。
給餌を終えた親鳥はアンテナ塔へ戻り周囲の様子に気を配っているようでした。
巣立ち雛が親離れをするまでの間、縄張りに近付く猛禽やカラスに対しての排除行動は継続されるようです。
一方で餌を受け取った巣立ち雛は食欲旺盛といった様子で小鳥の足を丸呑みする姿も見られました。
兎に角がっついて食べるといった感じで羽をむしることなく、地面に落下する残骸は皆無に近い状態。
小鳥を食べ尽くすまで時間としては5分くらいだったでしょうか。
食事を終えた巣立ち雛は足に付着した肉片や血を舐め取り、嘴をアングルに擦り付けてご馳走様の仕草。
観察を続けてふと思ったことが。
過去の観察ではいずれも杉の木で繁殖をしており、巣立ちを迎えると枯れ木に止まるというのが私にとってセオリーでした。
今回初めて人工物での繁殖を目にしましたが、この巣立ち雛にとっては鉄のアングルを見て生まれ育ったため、巣を離れても同じような人工物の方が落ち着くのかもしれません。
何はともあれ巣立ち雛を確認することはできましたが、生存を確認できたのはこの1羽のみ。
通常チゴハヤブサの雛は3~4羽生まれるはずです。
猛暑が影響したのか理由は定かではありませんが、雛に対する給餌はこの1羽のみに行われていました。
個体数が減少しているなか繁殖率も低いとなると近い将来本県での観察が難しくなる日が来るかもしれません。
チゴハヤブサの雛は巣立ちを迎えて約1ヶ月ほどで親離れをするようです。
今回観察することのできた巣立ち雛は間もなく親離れをする時期になりますが、あと少し経つと未だ見たことのない地を目指し日本を離れなければなりません。
無事に渡りを終え来年の初夏には元気な姿で故郷の秋田へ戻ってくることを心から願っています。
予想もしない展開でしたが、たった1羽の巣立ち雛の観察記はこれにておしまいです。