2023年12月4日
本日更新する日記は探鳥ガイド記。
既にご存じの方もいらっしゃると思いますが、当ホームページ【探鳥ガイド】の項目に記載してある通り、業務多忙のため6月よりガイドの受付を休止しています。
しかし今回は『アオハクガンを見たいのですが広い大潟村のなかから探せる自信がありません。短い日程ですが可能であればガイドをお願いできないでしょうか』と仰るお客さんの依頼を受け、急遽11月11~12日の日程でガイドを引き受けることになりました。
但し問題が一つ。
ガイド日程の前週(11月5日時点)はアオハクガンの渡来を確認できておらず、当日まで北海道から渡って来るかは運次第。
正にぶっつけ本番のガイドとなりましたが、その点についてはご了承を頂いたうえで当日を迎えました。
11月11日、8時40分着の便に合わせ秋田空港へお迎えにあがり高速道路を利用して大潟村へ。
村に到着したのは10時を少し過ぎた頃だったでしょうか。
何ヵ所かの餌場を回り、800羽ほどの群れを発見。
周辺にはハクガンの他、オオハクチョウ・コハクチョウ・ヒシクイ・マガン・シジュウカラガンも集結しており、こちらは歩行者天国につき車両通行止め。
折り重なる群れの中からアオハクガンを見つけ出すのは非常に困難な状況でしたが、お客さんの期待を背負ってガイドを引き受けた以上、何が何でもアオハクガンを見つけなければなりません。
可能な限りチェックを重ねていると何処からともなく飛来したハクガンの一個小隊。
数が増えるほどに確認作業は難航し、更に追い討ちを掛けたのは強風を伴う悪天候でした。
この日は北西の風が強く吹き付け急激に気温が低下。
前週は23℃という季節外れの暖かさのなかハクガンを観察していましたが、この時の気温は5℃と師走並みの寒さ。
あまりの寒暖差に流石の私も体を震わせていましたが、首都圏からお越しのお客さんにとっては厳しい寒さになっていたことでしょう。
震えながら確認作業を進めていると奥側からドミノ倒しのように飛び立ち始めたガンの群れ。
手前側の群れが飛び立つと視界がガンによって埋め尽くされました。
乱舞する群れにお客さんは歓喜していましたが、一体何が原因で飛び立ったのか...
人が群れに近寄った場合、警戒した群れは一方向に飛び立ちます。
しかしこの時は四方八方に飛ぶ姿を見て違和感を覚えました。
間もなく原因が判明。
飛び交う群れを突き進むように姿を見せたのはオジロワシ。
この時オジロワシはガンに襲い掛かる様子はなく、どうやら通過しただけのようでした。
暫くすると散り散りになった群れは再び集結し確認作業を再開。
強風の影響により目まぐるしく天候が変わると遂に霰混じりの雨が...
バチバチと音を立てて降る霰が車内にも入り込むようになり、一旦窓を閉めようと思ったところアオハクガンを発見。
この状況からアオハクガンの居場所を伝えるのは難しく、私の発見からお客さんが認識できるまで5分ほど要したでしょうか。
掲載した画像は600mmのレンズで撮影したものですが、10倍の双眼鏡越しに見えるアオハクガンはこの位の大きさ。
先ずはお客さんに見せることができ安堵しましたが、欲を言えばもう少し近くで観察したいところ。
しかし群れにはヒシクイやマガンも混ざっているため下手に近付くことはできません。
勇み足が過ぎるとハクガン諸とも全て飛んでしまいます。
幸いにも今回のガイドではアオハクガンの観察に重点を置いていたことから、条件が好転するまで気長に待って頂くことに。
暫くするとガンの群れが一斉に首上げ。
一体何を警戒しているのか。
再び猛禽が現れたのかと思いきや、視界に入ったのはタヌキの姿。
縦横無尽に駆け回るタヌキでしたがガンの群れは一斉に飛び立つことはなく、歩いて距離を取る個体も見られれば少し飛んで距離を置く個体と反応は様々。
危害を加える相手ではないと判断していることが伺えます。
タヌキが現れたことによりアオハクガンの居場所も変わり、再び様子を見てみたところ1羽だったはずのアオハクガンが2羽に増えるイリュージョン。
この時まで気付きませんでしたがアオハクガンは群れのなかに2羽混ざっていたようです。
改めて撮影した画像を確認してみると焦点を合わせて撮影した個体の直ぐ近くにはもう1羽のアオハクガンが写り込んでいました。
睡眠の姿勢であったことからこの時まで見逃していたようです。
これを機に意識して観察を続けると2羽のアオハクガンは離れず行動しており、昨季見られていた親子であるように思いました。
今季北海道で撮影された画像はどの写真を見ても単独で何らかの原因により落鳥してしまったのではないかと心配していましたが、ホッと胸を撫で下ろした瞬間です。
2羽のアオハクガンを主体として観察を続ける間、別の個体群が飛来。
こうした光景が何度か見られ、総数としては1000羽前後に膨らんだように思います。
強い北西の風を嫌ってか葦原を壁にしようとする個体や、隣の畑と行き来する個体も見られ何度か飛び立ちと着陸の場面を観察。
移動した先でも2羽のアオハクガンは離れず行動しており、昨季見られた個体であると確信を持つことができました。
ここで気になるのは通称パンダと呼ばれたアオハクガン。
特徴的な顔の模様からアダ名が付き、昨季は計3羽のアオハクガンが確認されていました。
パンダも群れに混ざっていないかと懸命に探してみたものの発見には至らず。
パンダを探すことにより改めて思わされたのは極端な幼鳥の少なさ。
数年前、700羽から1500羽まで爆発的に個体数が増えた年は群れの半数が幼鳥でした。
しかし今季の渡来数は暫定的数値になるもののおよそ1000羽。
個体数が減少したことに加えて幼鳥がほとんど見られない今季、繁殖地に一体何が起こっていたのでしょう...
これまで順調に個体数が回復してきたハクガンもここに来て足踏み状態です。
観察の方に話を戻し、寒さに震えること5時間余り。
努力の甲斐あって2羽のアオハクガンを比較的近い距離から見ることができました。
希にもっと近い距離で見られるケースもありますが、それは運頼み。
この時は観察範囲として限界と思える位置で見ることができ内容としては申し分なかったと思います。
薄暗くなり始めた16時頃、アオハクガンの観察を終えてハクガンの塒入りに備えました。
ハクガンの塒入りはマガンやヒシクイに比べると遅い傾向にあり、これまでの経験では日没後に見られることが多く肉眼で辛うじて見える程度です。
そういった内容になることをお客さんには理解を頂いたうえで塒入りの観察にあたるとハクチョウが次々に飛来。
ハクチョウは塒立ちが遅く、塒入りが早い傾向にあります。
まだ撮影が可能な光量であったことから「このタイミングでハクガンの塒入りが見られたら...」と思っていたところ、遠巻きながらもガンの群れが一斉に飛び立つ様子を目にしました。
飛び立った群れのなかにはハクガンも混ざっており「このまま塒入りするだろうか」と群れの動向に注目していると、ハクガンが徐々にこちら側へ。
明るい時間帯にハクガンの塒入りを見られるのは希なケースです。
この貴重な場面を風景の一部として切り取りたかった私はズームレンズを使用しての撮影。
安物レンズのためお世辞にも解像してるとは言えませんが、単焦点の望遠レンズでは撮ることのできない画角で貴重な場面を残すことができました。
ダイレクトに塒入りする個体が見られた一方、塒周辺を飛び交う個体も見られお客さんは大喜び。
お客さんが仰るに『自分に迫ってくるような感じで迫力があった』とのことでした。
私としてもこうした場面を見せられるとは思っておらず望外の喜び。
この時塒入りしたハクガンの数はおよそ半数。
残りの半数は17時頃に飛来し、塒入りの観察としては通常のものでした。
流石にこの時間帯になるとカメラの感度を相当上げなくてはいけないため、撮影した画像はノイズだらけになってしまいます。
しかしこれもまたこの時間にしか見られない光景ということもあり、撮影と観察を思う存分楽しんでもらうことができました。
ハクガン三昧の一日はこうして終了。
当初の予定では2日間ハクガンの観察を希望されていたお客さんでしたが、初日の時点で満足のいく観察ができたそうです。
翌日の観察について協議した結果、男鹿半島に観察の舞台を移し珍鳥探しをすることになりましたが、私も想像しない思わぬ出会いが待っていました。
翌日の様子は次週更新の日記へ続きます。