前回のあらすじ。
落石ネイチャークルーズが運航する船に乗り海鳥の観察を計画した今回の旅。
道東は初日から濃霧に包まれ欠航という最悪の結末を覚悟しましたが、船は予定通り運航し悪条件ながらも沢山の海鳥を見ることができました。
日程二日目に見られた海鳥は、ウトウ・ハシボソミズナギドリ・フルマカモメ・ハイイロウミツバメ・コアホウドリ・エトピリカ・ケイマフリ・チシマウガラス・ツノメドリ。
落石ネイチャークルーズのホームページを確認したところ、その他にウミガラス・ウミスズメ・トウゾクカモメも見られていたようですが私の目には入らず...
お目当てのエトピリカについては若鳥のみの確認に留まり、成鳥を見るには絶大な運が必要と厳しい現実を突き付けられる結果に。
今季の記録を遡ってみると成鳥が見られる確率は月に一回程度と極めて低いものでしたが、一縷の望みに賭け翌日の観察に備えました。
2024年7月14日
この日の根室市は早朝からすっきりとした青空が広がり視界良好。
少なからず霧の影響を受けるものと思っていただけに少々拍子抜けしましたが、落石漁港を望む高台からは水平線をはっきりと見ることができ海鳥の観察に期待が持てました。
漁港付近の旗も風に靡いており、ある程度の波も予測できたことから海鳥が沢山飛んでくれそうです。
その一方、小鳥の観察は驚くほど不調。
前日と打って変わって小鳥たちの鳴き声がほとんど聞かれず、北海道らしい光景と言えば電線止まりのノビタキくらいなものでした。
エゾセンニュウの声が聞こえる場面もありましたが、シマセンニュウ以上に観察が難しく幾ら待っても出てくることはありません。
漁港付近を散策していると11時出港のはずが9時過ぎには乗客が集まっており「やけに早いな...」と傍観していたところエトピリカ館の方に声を掛けられ『今直ぐ船に乗ってもらうことは可能でしょうか?』と急な問い。
詳しく話を伺うと乗客が多く急遽増便したというのです。
更に乗船時間を勘違いした乗客が出てしまったのだとか。
定員の問題上、調整のため乗って頂けると有難いとのことでしたが、私としては断る理由がなく二つ返事で乗り込むと船は慌ただしく港を離れました。
これが運命の分かれ道となるとは露知らず...
外港へ出て間もなくちらほらとウトウの姿が見られたものの、強めに吹く風とは裏腹に海況は穏やか。
天候が悪い時ほど海鳥は岸に近付くそうですが、晴天下では沖に離れることが多いようです。
晴天も良し悪しだと船頭さんの話に耳を傾けていると海鳥の動きに合わせたのか船は沖へと進みました。
暫くすると『エトピリカ!』と船頭さんの声に反応し乗客全員が船首の方へ。
この時見られたのは残念ながら成鳥ではなく若鳥。
船頭さんによるとエトピリカが成鳥になるまで四年を要するとのことで、性成熟するまでは陸に上がる必要が無いため一年中海上を漂っているそうです。
一頻り観察できたところで船は更に沖へと進みましたが、前日沢山見られたフルマカモメの姿は無くコアホウドリもハイイロウミツバメも見られず...
時々ハシボソミズナギドリが飛んだものの、どの場面においても背後を見送るという形になってしまい観察には程遠い状況でした。
暫く間延びした時間が続いていると『ウミスズメの雛!』という船頭さんの声があり、船頭さんが指差す方向を見てみるとタワシのような物体を確認。
親鳥に挟まれるように浮かんでいるのは初めて見るウミスズメの雛。
ウミスズメの雛は幼羽がフワフワとしており、頭部が見えない状態ではタワシにしか見えません。
この時も船頭さんからレクチャーがあり、ウミスズメの雛は親鳥に挟まれるように泳ぐことが多いのだとか。
ウミスズメ親子との距離が縮まると雛の全貌をはっきりと見ることができその可愛らしさに悶絶。
一生懸命泳ぐ姿に乗客一同『可愛い!』の連呼だったように記憶しています。
可愛い雛も角度が変わるとやはりタワシ。
少しずつ離れる親子に後ろ髪を引かれる思いでしたが「達者でな」という気持ちで見送りました。
ウミスズメの観察を終えてから船は本来の航路へ。
前日見ることのできなかったユルリ島もこの日は良好な視界のもと見ることができ、双眼鏡越しには島に取り残された白馬の姿も。
ここで再び『エトピリカ!』と船頭さんの声。
慌てて双眼鏡を覗きましたが残念ながらこの時見られた個体も成鳥ではなく若鳥でした。
しかし“残念”という言葉は正直な気持ちではあるものの贅沢な話です。
国内で見られるエトピリカは数えるくらいと云っても過言ではないでしょう。
他国では沢山見られる地域もあるようですが、国内においては絶滅に瀕しておりこの先数年後には見ることができなくなるかもしれません。
様々な要因が重なり今季国内で繁殖する個体は1~2つがい。
この事実を考えると若鳥が無事に成鳥となり少しでも個体数が回復することを祈るばかりです。
若鳥の観察を終えて船はモユルリ鳥へと進みましたが、この日はケイマフリの姿が少なく沖へ離れているように見受けられました。
手当たり次第に海鳥をチェックしていた時の出来事。
耳にしたのはこの日一番『成鳥!!!』という船頭さんの大声。
乗客が一斉に船首へ詰め寄りましたがパッと見た目に海鳥らしき姿は見当たりません。
しかし私の隣に居合わせた乗客が12時方向へカメラを向け激しく連写。
焦りを感じながらも双眼鏡を覗いてみると...
遂に成鳥のエトピリカを確認。
この時に写した画像がこちら。
遠巻きながらも黄白色の飾り羽が目立ち、これぞエトピリカといった風貌です。
いつ潜水してしまうか分からなかったため距離がどうであれ私も連写。
おそらく皆同じ気持ちだったことでしょう。
エトピリカを驚かさないよう船はゆっくりとした速度で進み、徐々に距離が縮まると肉眼でもエトピリカと分かるように。
橙・白・黄・黒、この四色のコントラストが脳を刺激します。
船はシャッター音の嵐。
ミラーレスに移行しつつある世の中ですが、この日の乗客はレフ機を使用している方が多かったのかもしれません。
エトピリカとの距離がある程度近くなったところで一時停船。
刺激を与えないよう配慮があったのでしょう。
暫くするとエトピリカは潜水を繰り返すようになり観察は終わりを迎えました。
数年かけて念願の成鳥エトピリカを見ることができましたが、もし予定通り11時出港の船に乗っていたらどんな結果になっていたのか。
知らずのうちに運命の分かれ道は良い方向を辿り、今回の旅も運に味方される結果となりました。
エトピリカを観察した後の乗客は皆誇らしげな表情。
この後に見たゼニガタアザラシとラッコは上の空だったかもしれません。
元々私が乗る予定だった後続の船が成鳥エトピリカを見ることができたのか分かりませんが、運命の分かれ道が悪い方向を辿り『先発の船が成鳥エトピリカを観察した』と聞かされた日には海に飛び込んでいたはず。
ゼニガタアザラシとラッコの観察後は前日と同様にウミウのコロニーへ。
この日は晴天下であったため前日より好条件でチシマウガラスを見ることができました。
モユルリ鳥~ユルリ島へと船は進み海鳥観察も後半戦。
前日一瞬目にしたツノメドリが見られたらと周囲を見渡しているとカマイルカの背ビレを目にしました。
7~8頭のカマイルカは時々ジャンプするように泳いでいたため、その姿を写そうとカメラを構えたものの...
回遊するように泳いでいたためか何処へ浮上するのか見当もつかず、海鳥の撮影より遥かに難易度が高めでした。
イルカを眺めて間もなくこの日4個体目のエトピリカと遭遇。
こちらは若鳥でしたが一日のうちにこれだけの数が見られとは思っておらず御の字。
画像を確認するとこの日見られた若鳥は特徴に若干の違いが見られたものの、齢としては同じ年に生まれた個体だったかもしれません。
最後に見られた若鳥が最も船を警戒せず、間近に観察できたことは大きな収穫でした。
エトピリカの観察後はウミスズメの小群れを観察。
スズメに似た鳴き声を頻繁に聞くことができたため動画に収めようとチャレンジしたものの船のエンジン音に書き消されてしまい残念ながらボツ。
そもそも声量が小さいため海上での録音は難しいかもしれません。
この日最後に観察できたのはウミスズメの親子。
こちらは2羽の雛を連れていましたが、背後から見る姿はやはりタワシ。
大きさとしてもタワシと大差ないのではないでしょうか。
ウミスズメの雛は見られる機会が少ないというお話があり、成鳥エトピリカといいこの日の1便は大当たりのクルーズだったのかもしれません。
港に近付いたタイミングで陸地を背景にウトウの群れを眺めこの日の観察は終了。
達成感を持って終えた落石ネイチャークルーズでの海鳥観察でした。
念願の成鳥エトピリカを目にするまで紆余曲折ありましたが、この時期としては初めての旅で目的を果たすことができたのは運が良かったとしか言えません。
国内において繁殖する個体は風前の灯火ですが、時間を掛けたとしても嘗てあった個体数に回復してほしいと願うばかりです。
また機会を作り海鳥の観察ができたらと考えていますが、今回が出来すぎていただけに次の機会が少々恐いような...
それにしても今回は本当に収穫の多い旅でした。
2024年 野鳥観察の旅 in 道東 (7月) はこれにておしまいです。