二日目と三日目の結果から実のなる木には更なる可能性が秘められてると考え、日程四日目も定点観察を行うことに。
2025年1月4日
山奥の宿から見る景色もこの日が最後。
私の頭にあったのは寂しさよりもカップラーメン。
海外旅行をすると日本食が恋しくなると言われますが食べ慣れた物は人其々。
友人も『早くパンが食べたい』と溢していただけに、お互い食に対してのストレスが相当溜まっていたようです。
街中へ戻る夜には美味いものにありつけるだろうと清々しい気持ちで宿を離れましたが、ギラギラと照りつける陽射しに嫌な予感…
その予感が的中。
観察場所へ着くと逆光が厳しく実のなる木を直視することができません。
苦し紛れに撮影した写真もコントラストがキツくなりご覧の有り様。
前日まで如何に恵まれた状態だったのか思い知らされる結果に急遽予定を変更。
当初の予定では定点観察を行ったのち台北へ戻る予定でしたが、早々に下山し台中の市街地で探鳥してみることに。
その道中、撮影したのは日本的珍鳥のオウチュウ。
台中を訪れ初めて目にした時は「オウチュウが居る!」と興奮気味でしたが、場所を問わず見られるようになるといつの間にか雑な撮影に。
この旅でオウチュウを見るのは最後になるかもしれないと丁寧な撮影を心掛けた一方、ハッカチョウは良い場所に止まってくれず…
粘って撮影したいところでしたが郊外の道路は道幅が狭く長時間停車することができません。
これまでの移動距離と燃費を考え高速道路を利用する前に給油を行いましたが、私の想定ではレンタカー返却時に残燃料は半分になるはず。
満タン返しではないため、この辺の匙加減が非常に難しい。
台中の公園へ着く頃には気温が上昇。
汗ばむ陽気に気温を確認すると26℃の表示が…
山間部との気温差に滅入ったものの、賑やかな小鳥たちの鳴き声に誘われ探鳥を始めるとハイガシラコゲラを発見。
頭頂が灰色であることからこの和名になったようですが、その特徴が見えない限り日本のコゲラとそっくり。
調べてみるとセグロコゲラと表記している方もおられるようですが、一体どちらが正しいのでしょう。
公園内を歩くと賑やかな声の持ち主は大半がシロガシラとタイワンオナガであると分かりましたが、そのなかからこれまでに耳にしていなかった声に耳を傾けます。
やや騒々しく聞こえる声の出所を探るとクロヒヨドリの姿がありました。
公園内では沢山の個体を見ることができたもののどれも証拠写真止まり。
なかなか好条件で観察することができません。
額から汗が流れるようになり腰を下ろして休憩しているとホオジロハクセキレイが目の前に。
渡航前には沢山のセキレイ類を目にすると思っていましたが、台湾で見られたのはキセキレイとホオジロハクセキレイのみという意外な結果でした。
休憩を終えて探鳥を再開する前に公園内のトイレを利用しましたが、鏡にはバードストライク防止のステッカーが貼っており保護意識の高さが伺えます。
芝生で採餌するカノコバトを眺めながら探鳥しているとアカハラシキチョウを発見。
発見当初は逆光位置であったものの私たちに動じる様子が見られなかったため順光位置へ回り込み観察を行いました。
公園で暮らしているためか人に対しての警戒心が感じられず見ている方が緊張気味。
初めて見る鳥に間合いの取り方が分からず固唾を飲んで見守っているとアカハラシキチョウは目の前に飛び降り虫を捕食。
動きはまるでモズ。
目線の高さの枝に止まっては降りてを繰り返し距離を取ることなく採餌を続けたため観察の内容としては申し分のないものになりました。
アカハラシキチョウの観察を堪能した後はシキチョウを発見。
しかしこちらは直ぐにロスト。
初めて見る鳥だっただけに口惜しい。
小鳥探しに夢中になっていると足元を動く大きな物体が…
何かと思えばズグロミゾゴイ。
石垣島で見る個体と同様、人に対しての警戒心を全く感じさせません。
それが故に目の前を動くまでズグロミゾゴイの存在に気付くことができませんでした。
のほほんとしているズグロミゾゴイを見ていると視界に入ったのはチョウセンウグイス。
私の見立てではチョウセンウグイスと判断しましたが、場所が場所だけに誤同定の可能性も有り。
チョウセンウグイスの発見まで順調に進んだ探鳥でしたが、この後はこれといった発見もなく公園を一周。
時刻を確認すると13時を過ぎていたため台中での観察はここまで。
明るいうちに台北へ移動しなければこの旅のお目当てであるヤマムスメを見ることができません。
慎重にハンドルを握ること約二時間、観察スポットとして名高い台北植物園に到着しました。
下調べでは台北植物園近くに駐車場情報がなく現地ではどうしようかと頭を悩ませていましたが、現地の人へ尋ねると路側帯部分にある白線ラインに沿って車を停めても良いとのこと。
センサーが駐車を感知すると係員がワイパーに駐車票を挟みに来るとのことで、料金はコンビニで後払いのシステムなのだとか。
無事に駐車することができ園内へ進むと…
驚かされたのは観光客の多さ。
あまりの人の多さに「こんなところで観察ができるのか」と思うほどでしたが、エリア毎に分かれた園内を見て回るとカメラを構えるバードウォッチャーを数名見かけました。
背丈の高い植物を眺めると台中の公園で見られたクロヒヨドリの姿が。
その他にタイワンゴシキドリも見られましたがお世辞にも条件が良いとは言えません。
その一方、人慣れした鳥も見られ観光客にスマホで撮影されていたのはタイワンオナガとアカハラシキチョウ。
肝心のヤマムスメについては気配すら感じられず…
苦肉の策でしたがスマホにヤマムスメの画像を表示したうえで台湾人バードウォッチャーに尋ねてみたところ手を横に振るジェスチャー。
どうやら台北植物園ではヤマムスメを見ることができないようです。
渡航前の下調べでは台北植物園での観察記事を多く目にしていたこともあり、勝手ながら行けば見られると安易に考えていました。
もしかするとここ数年のうちに見られなくなったのかもしれません。
結局、台北植物園ではヤマムスメを見ることができず単に観光しただけのようなもの…
植物園はエリア毎に閉園する時間が異なり追い出されるように観察を終えましたが、肩を落とす私に待っていたのは苦行とも言える市街地での運転。
ナビだけが頼りの私に『次の交差点を左折します』の音声ガイド。
言われた通り左折した瞬間『ブブッ』という警告音と共に右折の表示。
「オメー、さっき左折って言っただろ」
まごまごする私の隙をついて3人乗りのスクーターが割り込んできます。
広い交差点に差し掛かると何と七叉路になっており『次の交差点を斜め左方向です』の音声ガイド。
「何処の斜めなのか詳しく教えろよ」
ナビに文句を言いながらも無事に宿泊先へ辿り着くと拍手喝采。
同乗する友人夫婦にとっても市街地の運転は危険と感じていたのでしょう。
この日の夜は美味しい料理に舌鼓を打ち最後の夜に乾杯しましたが、私の頭から離れなかったのはヤマムスメ。
翌日は13時30分発の便で台湾を離れなければならなかったため残された時間はあと僅か。
その為あちこち動き回る余裕はなく地域を絞ってヤマムスメを探すことにしましたが、、この判断が吉と出るか凶と出るか…
2025年1月5日
新春の台湾旅行もこの日が最終日。
レンタカーの返却や空港までの所要時間を考慮すると観察のタイムリミットは午前10時。
それまでにヤマムスメを見つけなければなりませんでしたがここは台湾。
右も左も分からない私にとって雲を掴むような話でした。
ヤマムスメを探して車を走らせること約40分、視界の片隅に入った謎の飛翔体。
「ヤマムスメ!!!」
まさかの発見に急停車。
飛び出るように車を降りるとヤマムスメは真正面の位置に。
見つけることができた喜びと同時に驚いたのはその大きさ。
タイワンオナガと同大と思っていたヤマムスメは比べ物にならないほど大きく存在感に満ち溢れていました。
10分ほど観察を続けると林の奥へ姿を消してしまいましたが込み上げてきたのは例えようのない達成感。
前日の様子から半ば諦めの気持ちもあっただけに、この時の発見は非常に嬉しいものでした。
見失ったヤマムスメを探していると至る所で目にしたのはタイワンリス。
日本に生息するニホンリスとは顔つきや毛並みが異なり沖縄本島で見られるフイリマングースにそっくりです。
暫く歩き回ったもののなかなか見つからないヤマムスメ。
朝イチの発見が貴重なものだったのではと話していたところ友人の奥さんが樹上で採餌するヤマムスメを発見。
再び巡ってきたチャンスを逃すまいと連写の嵐。
嬉々とする我々に更なる幸運が。
驚いたことにヤマムスメが続々と飛来。
思いもよらない展開に狂喜乱舞といった状態でした。
飛来したヤマムスメの数は計7羽。
なかには頭を掻きながら飛ぶ器用な個体も見られましたが、ゆっくりと飛ぶヤマムスメは優雅という表現がぴったり。
群れる習性にあるのかヤマムスメは一本の木に集まると羽繕いを始めました。
こうなると私には欲が出てしまいます。
観察する分には良かったものの撮影となると条件が悪く、背景を作り出すことができないかと右往左往。
どうしても良い場所が見つからず元居た場所へ戻ると友人の頭上にヤマムスメが飛来。
何とここでウンチを浴びせるサービスが…
手荒い歓迎に苦笑いをする友人でしたが、肉眼でもじっくり観察できる好条件にウンチのことなどどうでもよいようでした。
願ってもない機会を活かそうと様々なアングルで撮影を楽しんでいたところ1羽のヤマムスメが目の前に。
道路へ降りたヤマムスメは大きな昆虫を捕食。
目の前で見るヤマムスメはまるで作り物、あるいは絵に描いた鳥のようにも思えましたが同時に獰猛さも感じました。
捕まえた昆虫を何度か噛むとヤマムスメは樹上へ飛び移り余す所なく食べ尽くしたようです。
暫くするとヤマムスメの群れは移動を始め林の奥へ。
想像以上の結果に笑いが止まらない私たち。
既に満足感でいっぱいでしたが時間にはまだ余裕があったため暫しその場に待機していると街灯に止まるコクマルガラスと同大のカラスを発見。
こちらの鳥、現地ではその風貌と大きさからカラスの類いと思っていましたが調べてみたところヒタキ科の鳥と分かり驚愕。
鳴き声はカワガラスによく似ておりカラスの印象が頭を離れませんでしたが、調べを進めた結果こちらの鳥はルリチョウと判明。
その和名の由来と思われる画像がこちら。
陽射しを浴びると美しい姿に早変わり。
光線の状態や角度によってはカラスのようにも見えますが、ルリチョウの美しさには脱帽でした。
間もなく時刻は10時となり台湾での観察はここまで。
再度ヤマムスメを見ることはできませんでしたが思い残すことはありません。
帰り支度を整えていると空を飛んでいたのはオオカンムリワシ。
最後の最後によいものを見ることができました。
レンタカーの返却まで事故なく運転できれば私の任務は終了。
この頃になると市街地での運転にもだいぶ慣れ現地民のように運転できていたと思います。
台湾での運転に求められるのは強気な姿勢。
勿論、安全が前提となりますが日本のように行儀良く運転していると計算通り目的地へ辿り着くことはできないでしょう。
旅の最後にパイナップルケーキのお店で有名な微熱山岳(サニーヒルズ)へ。
以前お土産で頂いたことがあり、本場のお店に行くことが私の夢でした。
いよいよレンタカーの運転もあと僅かといった頃、街路樹に群がるミドリカラスモドキを発見しましたが停車するには危険と判断。
友人夫婦を降ろし私は少し先で待機していると満面の笑みを浮かべて二人が戻りました。
良い写真が撮れたと喜んでおり、友人撮影の画像がこちら。
事故なくレンタカーの返却を終え残燃料を確認すると丁度半分。
気になる高速道路の請求額は約1500円。
下調べで台湾の高速道路は安いと知っていましたが、利用した距離を考えても想像以上に安いものでした。
レンタカー屋から空港まではUberで移動。
カウンターに並ぶGSはどの方も日本語が堪能だったこともあり手続きは非常にスムーズ。
出国手続きを済ませた後はラウンジで最後の晩餐。
松山空港の国際線ラウンジは各航空会社の共同ラウンジであったため、日によっては混雑していることもあるかもしれません。
台湾らしい料理のなかから私は小籠包をチョイス。
針生姜を乗せて食べる小籠包と台湾ビール。
達成感と安堵の気持ちも相俟って、この時の食事が一番美味しく感じました。
言語の壁から始まり、手に汗握る現地の運転。
思うようにいかない場面も多々ありましたが、振り返ってみると全てが良い思い出です。
こうして幕を閉じた初めての台湾旅行。
今回の旅では数多くの固有種を観察できましたが、次の機会には一味違った旅になればと考えています。
2025年 野鳥観察の旅 in 台湾 (1月) はここまで。