2022年4月25日
本日更新する日記は海鳥観察記。
今回も秋田沖で見られる海鳥にターゲットを絞り船上からの観察を計画しましたが、振り返ってみると秋田沖での観察は3年ぶり。
何度か計画を立てていたものの天候不良やコロナの影響があったりとなかなか実現できず今回やっとの思いで観察に漕ぎ着けました。
今回も利用するのは新日本海フェリー。
秋田沖の海鳥を観察するにあたり唯一の手段となります。
秋田港を午前6時15分に出港し、苫小牧東港へ到着するのは午後16時45分。
所要時間は10時間半の長い船旅です。
但し私が重要視しているのは秋田県の沖合いということもあり、青森県との県境までが勝負。
自分の観察眼を試す意味でも鼻息荒くフェリーに乗り込もうとしましたが、ここでアクシデント。
気負い過ぎていたのか搭乗時刻10分前ということろでまさかのぎっくり腰。
寸でのところで動きを止めた為、身動きが取れなくなるほどではありませんでしたが波乱の幕開けとなってしまいました。
定刻に秋田港を離れいよいよ海鳥観察の始まりです。
外港に差し掛かり目にするのは立ち並ぶ風車と洋上風力の基礎部分。
海面から突出する黄色の物体が基礎となり、ここに風車が建設されます。
秋田沖は洋上風力促進区域に指定されたことでこれから更に建設の計画があるようですが、各方面から反対意見が出ているにも関わらず全く意見が反映されません。
秋田沖を含め陸地側も多くの鳥にとって渡りのルートになっていますが、国や県だけではなく事業者も鳥類に及ぼす影響を把握しているはず。
しかし建設ありきの計画で事業が進んでいるというのが実状です。
この現状を踏まえ少しでも秋田沖に生息する海鳥のデータを取りたいと考え、今回は調査を兼ねての観察となりました。
港を出て間もなく目にしたのは慌てふためくシロエリオオハム。
航行するフェリーを避けるように羽をばたつかせていました。
岸から然程離れていない場所でも普段観察の難しい海鳥が見られたことから洋上風力の影響は容易に想像できます。
次いで見られたのはオオミズナギドリ。
こちらは個体数が多く右舷側、左舷側共に出ずっぱりの状態。
距離としては船の近くを飛ぶ個体もいれば陸地側を飛ぶ個体、沖を飛ぶ個体と様々。
水面に対し体を垂直にする飛び方が薙刀で水を切るように見えることから水薙鳥という和名になったようですが、和名通りの飛翔を見ることができました。
初列風切が水面に着くと飛翔するにあたり抵抗になりそうな気もしますが、これは故意にやっているのか波の影響を受けているだけなのか真相を知りたいところ。
沖の方では水面に浮かぶオオミズナギドリが沢山見られました。
他の種が混ざっていないものかと可能な限りチェックしていると一際大きな海鳥の姿が。
クロアシアホウドリの出現。
距離が離れていたため画像を拡大していますがこのクロアシアホウドリ、何故か今まで見ることができず私にとって初見となりました。
同じ航路で観察していらっしゃる方はしっかりと記録を出されていますが、私だけが見れずにいたこともあり“やっと”という思い。
これまでにアホウドリ科の鳥はコアホウドリのみの観察経験しかなかったということもあり、初めて見るクロアシアホウドリはスマートな印象を受けました。
私の意思に関係なく船が進んで行くことで観察できたのはほんの1~2分だったでしょうか。
もっと長く見ていたい気持ちでいっぱいでしたがこればかりは仕方ありません。
興奮冷めやらぬ状態でいたことろトウゾクカモメが視界に入り以前の観察に比べると特徴をハッキリと見ることができました。
男鹿半島を通過する前に幸先の良いスタートです。
何が見られるのか分からない状況ということもあり、注意深く周囲を見渡していたところカンムリウミスズメを発見。
実はこの航路では2回目の記録。
昨年の秋、野鳥の会秋田県支部の依頼により秋田沖で見られる海鳥についてデータを纏めていたところ画像の中にカンムリウミスズメが写っていたことに気が付きました。
当時気付くことができなかったのは観察経験の浅さが露呈した結果と言えます。
こうした経緯を踏まえ「今回も見られる可能性が高い」と意識したことにより見落とさずに済んだのかもしれません。
ここで左舷側から右舷側に移動して陸地側を眺めてみるとオオミズナギドリが沢山飛んでおり、洋上風力の影響がかなり大きく出るのではと思わされました。
男鹿半島の水族館が見えてきたところで再び左舷側に移動して丁寧にチェックを重ねていたところ..
「ん..ん..?」
「こ、これは..」
頭はパニック状態。
まさかのアホウドリが出現。
秋田沖の記録は極めて稀なはず。
私の知る限り酒田港から出航する飛島航路において記録にあるようですが他に話を聞いたことがありません。
秋田沖で海鳥を観察する人が少ないことも影響しているとは思いますが、それにしてもこの海域においてアホウドリを見れるとは想像もしませんでした。
勿論私にとって初見であり先に見ることのできたクロアシアホウドリの存在をかき消すほどのインパクト。
優しい顔つきが印象的で胴回りがとても太く感じました。
アホウドリを確認して間もなく入道崎の沖を進んだところでまたしてもクロアシアホウドリが出現。
始めに見た個体より距離が近かったこともあり、このチャンスを活かして鮮明な画像を残そうとひたすら連写。
この個体は船から近い位置を飛んでくれただけではなく、暫く船を追うようにして飛翔していたことから比較的長い時間見ることができました。
嬉しさが先立って撮影に夢中になっていましたが、姿が見えなくなったところで画像を確認してみたところ違和感が..
脳内図鑑に記憶しているクロアシアホウドリとは異なりアホウドリの幼鳥を疑いました。
しかしこれはとんだ間違い。
今まで専門的な図鑑に目を通したことがなく同定する為の知識を持ち合わせていなかったことから誤認を招いてしまいました。
観察経験も然ることながら勉強不足が否めません..
今後しっかりとした知識を身に付け観察に臨みたいと思います。
能代市の沖合いを進み八峰町の沖合いまでの海域は個人的にホットスポットと捉えていましたが、今回は鳥影が薄く思ったような成果を得られず。
間もなく青森県との県境に差し掛かろうとした頃、このタイミングで現れたのはコアホウドリ。
過去の観察を振り返るとコアホウドリは津軽海峡を抜けてからの記録のみであったことから秋田沖での記録は個人的にとても嬉しいものでした。
他の航路では当たり前のように観察されるアホウドリ科の鳥をWeb上で指を咥えて眺める日が続いていただけに、今回の観察は私にとって大当たり。
県境を越えたタイミングで秋田沖で見られた鳥を総括。
今回の観察において秋田沖ではクロアシアホウドリ・アホウドリ・コアホウドリを見ることができ貴重な記録を残すことができました。
狙い通りにカンムリウミスズメも確認できたことから今後も注意深く探すことで観察の機会に恵まれるかもしれません。
意外だったのはハシボソミズナギドリがほとんど見られなかったこと。
まだ北上して来るまで少し早かったのか、確認できたのは片手で数えるほどでした。
一方で船体から直ぐそばでアビ類がそこそこ見られたのは季節柄でしょうか。
船は午前9時前に青森県深浦町の沖合いを航行。
県境を越えた辺りから鳥相が一変。
オオミズナギドリがほとんど見られなくなり、代わって数を増やしたのはウミスズメ。
こちらは数が多くあちこちで群れを見ることができました。
津軽海峡に入るまでの間、総数にすると200羽以上の数を確認できたと思います。
撮影した画像のなかには大きな波間を飛翔するダイナミックな写真もありました。
ウミスズメほどではありませんでしたがウトウの姿もちらほらと。
これから天売島を目指して北上する個体かもしれません。
可能な限り確認の漏れが無いようにとチェックを重ねていたところ、かなり離れた場所を俊敏に動く小さな鳥を目にしました。
その際に撮影した原画がこちら。
画像の中央に白っぽい鳥が写っています。
当時は色合いと大きさからハイイロウミツバメとしていましたが、帰宅後に画像をPCで処理してみたところハイイロウミツバメのようには見えません。
こちらの画像をクロアシアホウドリと同様にTwitterへ載せてみたところハイイロヒレアシシギという見解を頂くことができました。
数年前に爆誕低気圧の影響で飛ばされてきた個体が本県の内陸部で確認されたことにより初記録となっていましたが私にとっては初見の鳥。
この見解を頂いたことにより不明種としていた個体全てがハイイロヒレアシシギと判明。
数は多くなかったものの所々で確認できました。
海鳥の観察をする傍ら撮影を試みたのがカマイルカ。
しかしどれ一つとしてまともに撮影することは出来ませんでした。
カマイルカは男鹿半島の沖合いから津軽海峡に入るまでの間、総数にして50~60頭ほど見られましたが焦点距離を伸ばすためエクステを装着していたことが仇となってしまいました。
ズームレンズであれば一枚くらい狙い通りの写真を撮ることができたかもしれないと後になって思いましたが、たらればを言ったところで時間は戻りません。
津軽海峡へ差し掛かった頃、腰の痛みが増し立っているのが辛い状態に..
しかしこれから多種多様な海鳥が見られるだろうという期待から痛みを堪えてチェックを重ねましたが予想に反して海鳥はほとんど見られず。
忘れた頃に現れるはミツユビカモメ。
ぽつりぽつりと現れるミツユビカモメ以外にこれといった成果が得られない鳥まま船は日高沖へ。
津軽海峡での鬱憤を晴らそうと気持ちを新たに観察へ望みましたが日高沖の海況は思ったよりも穏やか。
荒れるほどに期待は高まりますが、この状態で海鳥は飛びそうにもありません。
時間の経過と共に腰の痛みは増し、立っていることができない状態になってしまいました。
デッキへ寄り掛かったり座ったりを繰り返していると突然現れた褐色のミズナギドリたち。
今回の航路では初めてのパターン。
翼下面が陽に照らされキラキラと輝いて見えます。
カメラを構える姿勢も辛く、この時は力を振り絞ってという表現が適当な状態でした。
種を確認するような余裕もなく”取り合えず撮影“といった形でしたが、おおかたハシボソミズナギドリやハイイロミズナギドリだろうと高を括っていたところ..
画像を拡大してみると嘴の色が異なりアカアシミズナギドリと判明。
俄に喜んだ瞬間でしたが、アカアシミズナギドリが出現した後はただ痛みと寒さに耐えるだけの苦行が待っていました。
真冬の防寒対策で挑んだものの、体感的には流氷クルージングの時よりも寒かったと思います。
暫く経って見られたのはハシブトウミガラス。
3羽写るうち一番上の個体はウミガラスのようにも見えますが、いかんせん不鮮明な画像であることから断定はできず..
結果的に秋田沖の観察が山場となり津軽海峡に入ってからはほとんど何も見ることができないまま苫小牧東港へ。
長時間冷たい風に当たっていたせいか体が底冷えしてしまい船を降りてからも震えが止まりませんでした。
兎にも角にも何か温かいものをと思い夕食に選んだのは味噌ラーメン。
生き返るとはこのことかと思わされる至福の一杯でした。
冷えた体を癒したところでこの後は「道東の旅へ」と言いたいところですが19時を回ったところで再び乗船。
今回はあくまでも海鳥の観察が目的であった為、北海道での観察はありません。
翌日は地元での観察が待っています。
19時30分、苫小牧東港を出港。
「さらば北海道」
出港して早々に入浴を済ませると何もすることなく爆睡。
長時間の観察で疲れていたこともあり、目が覚めると既に男鹿半島の沖を航行していました。
腰の痛みは全く改善せず、体をくの字に曲げながらデッキに出るとオオハムの姿が。
間もなく秋田港へと差し掛かろうとしたところで改めて立ち並ぶ風車を見ると行く手を阻む要塞のようにも見えます。
画像は秋田港周辺に乱立する風力群の一部。
7時35分、秋田港へ到着。
今回の観察を振り返ると秋田沖にも希少なアホウドリが生息していることが判り、洋上風力が与える影響は計り知れません。
綱渡りの電力供給は大変危険なものであると承知していますが、関東地方では停電の危機を節電することによって回避できました。
当時報道された映像を見ると節電が呼び掛けられても街の明かりは煌びやかなままで「まだまだ節電できるだろう」と思った記憶も。
再生可能エネルギーによる発電は温暖化対策として必要なことかもしれません。
しかし国や県、事業者には建設ありきの計画ではなく生態系への影響を考慮した上で物事を進めてもらいたいと思います。
同じ地球で暮らす他の生き物たちの為にも..
本日の観察日記はここまで。