2024年7月1日
本日更新の日記は5月25~26日の観察から。
先週の記事とは日付けが前後する今回の記事、観察対象が繁殖期であったため更新まで少しばかり間隔を設けました。
今回観察したのは環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類に分類されるチゴモズ。
レッドリストとは種毎に絶滅のおそれの程度に応じ、カテゴリー分けをして評価するもの。
絶滅危惧ⅠA類は【ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの】という評価になっていますが実際のところ手厚く保護されている訳ではありません。
現実起きている問題については後から説明することにして先ずは観察の様子から。
例年5月第4週ともなると比較的渡りの遅い夏鳥も揃い踏みする頃。
あくまでも個人的な感覚ですが本県において夏鳥を観察するにあたり「観察しやすい」と感じるのがこの時期です。
チゴモズは先に渡来した雄が目立った場所へ止まり雌を呼び込むため盛んに鳴き声を発しますが、この日もその様な場面を想定し繁殖地へ行ってみたところ...
探し始めて間もなく目にしたのは虫を捕獲する雌の姿。
これまで渡来状況を確認するため各繁殖地を巡り調査を行ってきましたが、先に雌を確認したのは初めてのケース。
想定とは異なる展開に戸惑いを隠せませんでしたが、苦もなく渡来を確認できたことは運が良かったと言えるでしょう。
渡りの途中に立ち寄ったものでなければ付近に雄がいるものと考え、暫く観察を続けたものの一向に姿を確認できず。
その間に雌は何度か居場所を変えていましたが、行動範囲は限定的で非常に観察しやすい状態が続きました。
観察中は特に鳴き声を発することもなく淡々と採餌しており、その様子から単独の個体であろうと考えた矢先の出来事。
捕獲した獲物とは思えない物を咥えて飛翔する姿を目撃。
然程遠くへ飛ぶこともなく付近の木へ止まったため、何を咥えているのか確認したところ巣材を咥えていることが判明しました。
こちらは撮影したものの拡大画像。
流石にこの展開には驚かされました。
前述したように例年この時期は先に渡来した雄が雌を呼び込む頃。
当然ペアになるのはもう少し先であり造巣となれば尚更のこと。
巣材を運搬しているからにはペアとなった雄が居るはず。
付近を探し回っていると頭上から『ギチギチギチギチ』とけたたましいチゴモズの鳴き声が聞こえてきました。
見上げてみると巣材を咥えた雄が盛んに鳴いており何やら興奮している様子。
その姿を写した拡大画像。
間もなくこの場所を離れると次に確認できた時には巣材を咥えておらず、場所を転々としながら鳴き声を発していました。
雌を呼び込む時の鳴き方とは異なり、頭頂が逆立っている様子から何かを警戒しているようです。
別個体の雄が縄張りに侵入したのであれば排除するため追いかけるはず。
しかしこの時の姿はまるでヘビでも出た時のような騒ぎでした。
一体何を警戒しているのかと周囲を見渡してみるとモズの姿が。
おそらくこちらのモズは元々こちらを縄張りに暮らす個体でしょう。
留鳥のモズからすると引っ越してきた住人がヒステリーを起こしているような感覚かもしれません。
チゴモズが直接的な攻撃を加えることはありませんでしたが、モズがこの場を離れると雄の個体は冷静さを取り戻しているようでした。
電線に止まり寛ぐ雄が見られる一方、せっせと巣材を運ぶ雌。
何度も巣材を運ぶ様子から付近の松の木へ造巣していることが分かり、行動範囲は営巣木を中心に半径100mほど。
モズの縄張りに比べると随分と狭い範囲であると言えます。
何度か巣材を運んだ雌は再び採餌のため居場所を転々とするようになり、都度撮影を行いました。
開けた場所へ出ることの多い雌に比べ、雄は暗い環境を好む傾向にあり同種のなかでも警戒心が強い個体なのかもしれません。
性格、行動の違いを感じながら観察を続けていると雌が控えめな声を発し始めました。
間もなく見られたのは羽を震わせて餌を要求する姿。
声量としては小さいものでしたが雄の反応は早く、藪のなかから姿を見せると獲物を探しているようでした。
一瞬でクモを捕獲すると電線に止まり鳴き声を発する雄。
獲物を雌に届けるものと思っていましたがまるで『欲しいなら貰いに来い』といった雰囲気です。
間もなく雌が飛来すると直ぐに餌を与えることはなく二羽とも営巣木へ移りました。
巣は松の木の上部にあり非常に枝葉の混みあった場所であったことから様子を伺い知ることはできません。
亭主関白な雄に一歩後ろを歩くような控えめな雌。
昭和時代の夫婦を思わせるペアを面白く感じ翌日も観察を継続してみることに。
この日(5月26日)繁殖場所へ行ってみると目に飛び込んできたのは枯れた葦にしがみつき穂先を切断する雌の姿。
朝からせっせと巣材を集めていたようです。
相変わらず雄は暗がりのなかを動いておりその姿をはっきりと見ることはできません。
働き者の雌は巣材を集め終えると腹拵え。
この時は緑色の芋虫を捕獲していました。
お腹が満たされた後は枯れ木に止まり羽繕いをしたりと休憩に入った様子。
明るい環境を好む雌とあって観察は容易でしたが陽射しが強すぎて撮影は難儀させられました。
これまで観察してきたペアはどちらかというと雄の方が開けた場所へ出てくることが多く、こちらのペアは特異なケースと言えるでしょう。
休憩が終わると再び巣材を集め始めた雌。
働き者な雌を余所に雄は一体何をしているのやら...
なかなか姿を見せない雄が気になり動向を探っているとブッシュから飛び出し営巣木付近へ移動する場面を目撃しました。
追跡すると視認性の良い場所に止まっている雄を発見。
どうやら餌となる生き物を探しているようです。
少し距離を縮めて観察してみると嘴を大きく開き首を振りだしました。
ペリットを吐き出す動作と分かりここは連写。
喉元から出てきたペリットが僅かに見て取れます。
吐き出す瞬間、更に激しく首を振りペリットは一瞬で消えて無くなりました。
ペリットがどの様な物であるのか興味があったのですが残念ながら回収できず...
ペリットを吐き出した後、草地へ飛び込んだ雄は何らかの生き物を捕獲し奥まった場所へ移動。
やはり暗い環境を好むようです。
対照的に開けた環境を好む雌は観察しやすく様々な場面を見ることができました。
ノジコの渡来が例年より早かったことについては以前の日記で触れていましたが、チゴモズも同じように例年より10日~2週間ほど渡来が早かったのではないでしょうか。
この観察を契機に他の繁殖地を回ってみたところ既に造巣が終わったペアも見られ、今季の渡りは例年より早まっていたことが裏付けられました。
渡来状況を調べるにあたり気になったのは県北部地域の個体数。
著しく個体数が減少しており大規模な開発が影響したものと考えます。
工事が進められる前には環境アセスの調査が実施されているはずですが、おそらくチゴモズの生息について調査結果も出ていたことでしょう。
嘗て県中央部の開発が進められる前にも同様のケースがあり、何等かの措置が講じられるものと思いましたが全く配慮はありませんでした。
希少種だからという話ではありませんが同じ地球で暮らす生き物に対しもっと配慮があってもよいはず。
何の為のレッドデータ、何の為の環境アセスなのか私には理解できません。
暗い話題になってしまいましたが今回観察したペアも含め、各々の繁殖地で生まれた雛たちは巣を離れ親鳥から様々なことを学んでいる頃でしょう。
無事に成長することを願い、また来季元気な姿を見せて欲しいと思います。
本日の観察日記はここまで。