前回のあらすじ。
今年二回目の渡航となる隣国・台湾。
今回は台湾本土から西に約200km離れた金門島へ渡りましたが、何よりも驚かされたのは鳥密度の濃さ。
宿の前に立っているだけでも沢山の鳥を見ることができ金門島のポテンシャルを感じずにはいられませんでした。
しかし金門島の野鳥は日本と異なる警戒心を見せ撮影という面においては苦戦したものの、ヤツガシラだけはのんびりとした様子。
この旅でお目当てとしていたハリオハチクイを無事に観察することができ、翌日はヒメヤマセミとアオショウビンを探してみることに。
2025年5月24日
日程三日目。
この日はヒメヤマセミとアオショウビンをお目当てに早朝から行動を開始。
前日見かけていた地点にナビをセットして走り出すこと約1分。
前方から一直線に飛んできた謎の飛翔体。
目の前に迫るまでコンマ数秒の出来事でしたが、脳内図鑑から弾き出した答えはオオバンケン。
予期せぬ飛来に急停車すると推定オオバンケンは真横のブッシュへ潜り込んだため咄嗟にカメラを構えましたが…
私の見立てに間違いはなかったものの距離が近過ぎピントを合わせることができませんでした。
間もなくオオバンケンは藪の奥へと移動してしまい動向を伺い知ることができず…
しかし姿が見えなくなったからといって易々と諦められるものではありません。
車を空き地へ停めて捜索に当たると聞こえてきたのは重低音で響く『ボゥボゥッ』という大きな鳴き声。
ツツドリを思わせる鳴き声からオオバンケンが鳴いているものと確信し声の出処を探っていると畑にその姿が。
カメラを構えた瞬間、一目散に走り出したオオバンケン。
まるでキジが駆けるような速さに仰天しましたが、トケンらしからぬ俊敏性を見せたオオバンケンは小路を駆け抜け藪の中へ潜り込もうとしていました。
突然駆け出し藪の奥へ姿を消したオオバンケンは私を警戒したものと判断。
こうした場合、距離を詰めるより待つことが得策と考え辛抱強く待ったものの…
一向に姿を現さず。
痺れを切らした私はオオバンケンが潜り込んだ藪の前に立ちましたが、気配すら感じ取ることができませんでした。
ヒメヤマセミとアオショウビンの捜索を控えていただけに、一期一会も良しとしてその場を離れようとしたところ再びオオバンケンの鳴き声が。
藪を潜り抜け移動していたのか鳴き声の出処は遠く離れており別個体と鳴き交わしている様子。
再び捜索に当たるとオオバンケンの姿は樹上にあり双眼鏡を覗いて間もなく…
突如として別個体が飛来。
驚いたことにオオバンケンが交尾を始めました。
まさかの展開に喜びを隠しきれず。
単に写真を撮るのではなく、行動を観察したいと思う私にとっては望外の喜びです。
交尾を終えた2羽は其々別行動を取ったため、片方の個体に的を絞り観察を続けるとクビワムクドリに騒ぎ立てられるオニカッコウを目撃。
新たな出会いの連続に歓喜。
宿を別に取っていたならこうした観察はできなかったことでしょう。
これもまた運が良かったのかもしれません。
観察に一定の区切りをつけ本来目的としていたヒメヤマセミとアオショウビンの捜索へ向かうと道路脇の空き地に複数のカササギを目撃。
宿周辺でもカササギを目にしていましたが、金門島に生息するカササギは全体的に羽色がくすんで見えました。
日本に生息するカササギは黒を基調として白と青の差し色が美しいと感じるのに対し、金門島で見られるカササギはコントラストがぼんやりとした印象です。
電線に止まるベニバトは巣材を咥えており、樹木に見え隠れするコイカルのペアも巣材を咥え繁殖シーズン真っ只中といったところでしょうか。
日程二日目と観察種は大きく変わりませんでしたが、私が気になっていたのはクロウタドリ。
数が多い割りにどの個体も警戒心が強く条件良く見ることができずにいましたが、日本で見られる亜種クロウタドリに比べると体長が小さく胴回りも細く感じます。
全体的な雰囲気の違いから「そもそもこの鳥はクロウタドリなのか?」と思うほど。
こうした疑念を残したままでしたが、帰国後に台湾の野鳥図鑑を開いてみたところクロウタドリのページに『中国黒鶫』と表記がありました。
素直に読むとチュウゴククロツグミ。
では「日本に夏鳥として渡来する亜種クロツグミは?」と思いクロツグミのページを開いてみると『烏灰鶫』と表記があり、中華圏において黒鶫とはクロウタドリを指すようです。
更に英名を調べるとChinese Blackbirdと日本で見られる亜種クロウタドリとは英名が異なるため、台湾のクロウタドリは別亜種に分類されるのかもしれません。
クロウタドリの観察を終えて水辺を徘徊するとマサイ族並みの視力を自画自賛。
遠くに佇むアオショウビンを発見しました。
風景画にも見えるこちらの画像、画像中央部を拡大するとアオショウビンが写っています。
我ながら天晴。
しかしながら観察するには遠過ぎる現実。
回り込んで観察しようにも藪が混み合い手も足も出ません。
遥か彼方のアオショウビンを眺めていると近場から『キョロロロ…』というアカショウビンに似た鳴き声が。
アオショウビンの鳴き声に間違いないと声の出処を探ったところ…
やや距離が離れていたとは言え観察するには十分。
様子を伺うとアオショウビンは川岸を行ったり来たり。
狩りをする訳でもなく場所を変えては囀りを繰り返していましたが、おそらくこちらの個体は雌を呼び込もうとする雄だったのではないでしょうか。
アオショウビンとの距離は徐々に遠退き観察が難しくなったため、ヒメヤマセミを探して回るとカラシラサギを発見。
特に繁殖行動は見られませんでしたが、もしかするとカラシラサギも金門島で繁殖しているのかもしれません。
水辺に沿って移動していると目にしたのは土壁に掘られた巣穴。
穴のサイズからアオショウビン若しくはヒメヤマセミの巣穴と推察できましたが、巣穴から出てきたのはハッカチョウ。
大家不在の間に住居侵入したのでしょう。
これぞ正しく空き巣です。
古巣とは言え巣があるからにはどちらかの鳥が近場に生息しているものと考え、注意深く貯水池を見て回るとコアジサシに混ざって狩りをしているヒメヤマセミを発見。
ヒメヤマセミはホバリングと小刻みな移動を繰り返していましたが、残念ながら距離は遠退く一方。
双眼鏡で行く先を追ったものの姿を見失ってしまい捜索は振り出しに戻されたと思いきや…
毎度のことながら運だけが頼り。
知識が浅く経験も少ない私にあるのは運のみ。
この時も運が良かったのかヒメヤマセミのダイビングを間近に見ることができ、理想とする場面に喜びを隠しきれず。
狩りが成功するとヒメヤマセミは水辺を離れてしまったため再び捜索しようと思いましたが、時刻を確認すると間もなく正午といったところ。
腹時計もグーグーと鳴っており観察に区切りをつけて昼食の買い出しへ向かうと…
私を待ち受けていたのは八角地獄。
日本でもお馴染みのコンビニに入ると店内に漂っていたのはただならぬ匂い。
思わず眉を顰めてしまう匂いの原因は茶葉蛋。
茶葉蛋とは八角などの香辛料を加え卵を茶葉で煮込んだ料理ですが、台湾のコンビニではお馴染みのホットスナック。
蓋をせず煮込んでいるため私のように八角が苦手な人にとっては地獄の一丁目一番地と云っても過言ではありません。
鬼の所業に思考回路がショートしたのか何も買わずに退店してしまい結局こちらのお店へ…
安心したのも束の間、私の嗅覚が馬鹿になったのでしょうか。
マクドナルドのハンバーガーでさえ八角の風味を感じる事態に。
腹拵えを終えると太陽の位置は南中高度を迎え、ハリオハチクイを撮影するには好条件。
前日は逆光が厳しく露出の設定に苦慮したものの、太陽の傾きが変わる午後の時間帯は順光で撮影を楽しむことができるようです。
こちらの営巣地は撮影をするなら午後、行動を観察するのであれば朝夕の時間帯が狙い目となるかもしれません。
※晴天時の場合。
ハリオハチクイの観察を楽しんだ後は金門島の観光スポットを巡りましたが、最も旅行気分を味わえたのは山后民俗文化村。
伝統的な古民家集落が立ち並ぶ山后民俗文化村を散策してみるとテレビでしか見たことのないような風景が広がっていました。
こちらの集落は1900年に建てられ歴史的に日本と結びつきが深いのだとか。
現代は中国から移住する中国人が溢れかえる日本ですが、嘗ての移民を華僑と呼ぶのは多くの方が知っていることでしょう。
時同じくして金門島からは神戸に渡った人が多く、そうした人々を台僑と呼ぶそうです。
このような歴史など露知らず「お〜、中国っぽい」とミーハー気分で見て回りましたが、今更ながら歴史を調べてから見学すべきだったと少々後悔。
集落の散策を終えて海沿いを走ると見えてきたのは福建省のビル群。
この日は空気が澄んでいたためか前日よりもはっきりと中国の景色を見ることができました。
晴れたり曇ったりを繰り返すお天気でしたが梅雨前線が中国大陸まで伸びるこの時期、雨に降られず済んだことは運が良かったとしか思えません。
再びヒメヤマセミとアオショウビンを観察したいと考え貯水池へ向かうとクビワガラスを発見。
ようやく特徴を捉えた写真を残すことに成功しましたが、日本では当たり前のように見られるカラスも台湾では個体数が少ないのか目にする機会はほんの僅か。
そのため珍鳥を撮影するかの如く夢中になってシャッターを切っていたように思います。
こちらは農地脇を通っていた時の画像。
何処の国もトラクターは大人気。
群がる鳥を見て海外へ居ることを改めて実感。
こうした日常を見ることも海外探鳥の醍醐味といったところでしょうか。
貯水池へ着いて間もなくアオショウビンを目にしたものの、警戒心が強く迂闊に近寄ることができず。
辛抱強く観察を続けた結果、一定の間隔で同じ電線に飛来することが判明。
しかし往来する車に敏感であったことから撮影の機会には恵まれず、どれほどの時間を費やしたことでしょう。
粘りに粘って辺りが暗くなりはじめた頃、ようやくチャンスが訪れました。
私にとってはこれが精一杯。
ヤツガシラと同じくイラストに描かれていたこともあり、正直なところここまで苦労するとは思いませんでした。
季節的なものなのか個体数が減っているのか、それとも私の探し方が悪かったのか…
たった二日の観察で語りきれるものではありませんが、想像以上の苦労があったのは事実です。
内容はさておき、目的を果たし気分良く宿へ戻ると驚愕の光景に遭遇。
威勢の良い掛け声が聞こえ何事かと思った瞬間、目の前を通過したのは散歩中の牛。
スクーターに乗りながら手綱を引く御仁は裏路地へと姿を消しましたが、宿の周辺は車通りも多くスーパーや飲食店が立ち並ぶ立地条件。
こうした光景が日常茶飯事だとするなら夕暮れ時の金門島は牛の散歩に要注意です。
2025年5月25日
金門島の旅もこの日が最終日。
10時05分発の便で金門島を離れ台北〜羽田と秋田まで乗り継ぎを繰り返さなければいけません。
そのため観察に充てられる時間はほんの僅かでしたが、何か一つでも良い場面に巡り会えたらと宿周辺に的を絞り探鳥を始めたところシキチョウが目の前に。
直ぐに距離を取られると思いきや、その場へ留まる様子に違和感を感じ双眼鏡を覗くと巣立ち雛であることが分かりました。
餌を貰った巣立ち雛は親鳥の後を追うように移動しましたが、撮影した画像を改めて見てみるとあどけなさが残り顔が綻びます。
小路を歩くと当たり前のように見られたのはヤツガシラ。
石畳の継ぎ目に嘴を挿し込み採餌に夢中な様子でした。
オオバンケンをお目当てに前日と同じコースを回ると畑にクビワムクドリの姿があり、こちらはオニカッコウを威嚇していた個体でしょうか。
『ボゥボゥッ』という鳴き声が聞こえて間もなくブッシュから突如として飛び出してきたのはオオバンケン。
ヘビを咥えているように見え咄嗟に撮影した画像がこちら。
ピントは合っていませんが咥えていたのは草であることが判明しました。
「カッコウ科の鳥が巣材?」と首を傾げましたが、調べてみるとオオバンケンは卵寄生鳥ではないようです。
知識が浅いだけにカッコウ科の鳥は全て托卵するものと思っていただけに意外にも思えた事実。
暫くするとブッシュから顔を覗かせこちらを凝視。
私の動向を探っていたのかもしれません。
どのような行動を見せるのかと思い微動だにせず観察を続けると別個体が激しい音を立てて目の前を通過。
私の目には攻撃性を持っていたように見えましたが、一瞬の出来事ということもあり音の原因は分からず。
攻撃を加えたのか、それとも餌の受け渡しだったのか…
姿が見えなくなり時刻を確認するとタイムリミットまであと僅か。
慌てて行動することのないよう余裕を持って…と宿へ向かうとオオバンケンが目の前に。
こちらが旅の最後に撮影した画像になりました。
こうして終えた金門島の旅行。
実質二日間の観察でしたが今回の旅を振り返ってみると、これまで旅鳥または数少ない冬鳥として観察してきた種の繁殖行動を見られたことは大きな収穫でした。
またタイトなスケジュールのなか海外での乗り継ぎも上手くこなすことができ、今回の経験は今後の海外旅行に活かせることでしょう。
地理的に軍事的圧力が強い金門島。
機会があれば季節を変えて再訪したいと考えていますが、今はただ台湾有事が起きないことを願うばかりです。
2025年 野鳥観察の旅 in 金門島 (5月) はここまで。